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漫画けもの道

年間200ページの低所得者(2016年2月18日の記事に加筆)

 

漫画家、レディコミ作家という肩書はどうしても色眼鏡で見られます。ブログ開設後、私の漫画を読まない方々から見当違いのメールをずいぶんいただいて辟易しました。金銭や労力の要求もありました。確かに、どういう働き方をしているのか、金銭的にはどうか、私もデビューまで知りませんでした。新人の原稿料だけは投稿前にチェックしていましたが(おい)、どういう育成システムか知りませんでした。アシスタント経験はなく、毎月投稿して3万~5万円の賞金を稼いで生活費の足しにし、都内でひとり暮らしできていました。デビュー後、それ以上に厳しい生活になるとは予想できず、後から余計な苦労をしました。デビューして初めて知った裏事情を脚色し「漫画けもの道」と題してブログに連投したのは、誤解を避けたいという思いと、後進の参考になればとの思いによります。特定の出版社や編集者を傷つける意図はありません。

意図的に時系列を入れ替え、個人を特定できないように脚色しています。

あくまで過去のある時代の特殊経験者の偏見によるフィクションとしてお読み下さい。

 

大手デビュー後間もなく担当編集者に言われました。以下言葉そのままです。

「見開き2頁に王子様が出てきて、ヒロインが王子様と結ばれる話を年間200ページ描け、それが嫌なら今すぐやめろ。」

ファンタジー系やホラーなら、要求が違うと思いますが、メジャーの一般向け少女漫画はそうでした。担当編集者による違いもありますが最初はラブコメで確実にアンケートを取るのが常道だと思います。人気が出ると、自分の温めていた得意なネタを出して幅を広げます。独特の作風で知られるベテランも、最初はラブコメで、初期作品集を見て意外に思うことがあります。昔から少女漫画は最初はラブコメです。苦手と言っていられません。

 

年間200ページは、それだけ描ければ認められるという目標です。32ページの読切りを隔月で描くと、192ページに

なります。40ページの読切り5本で200ページになります。これは新人から見れば上出来、充分と言っていい仕事量です。コンスタントに描いている漫画家と名乗れます。ただし当時の大手少女漫画の原稿料は5000円(大手で3500円の雑誌もありました)ですから、200ページ描いても年収100万円です。当時そこでは1年で1000円、2年でまた1000円上がり、7000円までは誰でも上がりました。それ以降はヒットがあれば上がりますが、なければ据え置きです。原稿料は会社、雑誌によって違いますので、あくまで私の経験した雑誌の話だと思って下さい。2年以内に連載を取ってヒットを出さないと生活費を稼げません。7000円で月刊誌で連載しても、32ページで2688000円です。ここから必要経費が出ますから連載作家も生活は厳しいです。コミックスが出ても印税は10%です。単価500円初版1万部で印税は50万です。増刷にならなければ原稿料1本分程度のボーナスです。売れないと次のコミックスは出ません。2巻以降が出ないこともあります。どこまでも試練が続きます。

 

それでも、そこまで行けば他に売り込みもやりやすいので、当面の目標はまず連載です。しかし私の場合は、1年過ぎてやっとアンケート3位、次の掲載予定はないと言われ、数か月後の会議で通れば掲載する、ということでした。

ちなみに、年数回の会議では、新人、それ以前にデビューした若手、他からの持ち込み等が掲載枠を競い合い、競争率30倍ということもありました。落ちればそれまでいくら経費がかかっていても1円も支払われません。結果的に次の会議で通りましたが、到底生活できませんし奨学金の返済も抱えていました。3位で次がないと言われた時点で、これはダメだと自分なりに判断し、次の手としてそこでのネーム、他への持ち込み、カットの営業、アルバイト、パソコン・ワープロスクール通い、漫画と両立できる短時間勤務の職探しを併行してやりました。そして同じ出版社で仕事をつなぎながら、9時5時の事務職と兼業することにしました。漫画だけを見ると順調に行かなかったわけですが、それでも今思うと努力しました。その後連載決定と同時に会社を辞め専業になりましたが、それから1年たたずに会社が倒産、遅かれ早かれ専業漫画家になるしかありませんでした。

ちなみに、新人の原稿料は、私が持ち込みした30年前と比べても1000~2000円程度しか上がっておらず、不況で下がったところもあると聞いています。新人以上も同じです。

 

売れれば上がると言われますが、デビュー直後に編集者から「手塚先生も里中先生も、原稿料が上がって仕事がなくなるのは困るから、自分から原稿料を下げたんだよ。新人が金の話なんかするんじゃないよ」と言われたのを憶えています。原稿料は上がればいいという話でもなく、高くて仕事が減れば下げる人もおり、安くてもやりたい仕事なら受けることもあります。「ガロ」が原稿料なしだった話は有名です。値段は雑誌ごとに違い、同じ人でもストーリー漫画と、ギャグ、ショートで違います。よくネットに書かれている金額をどこでもいつでも本当にもらえるわけではありません。恵まれている、と言われるような状況ではありません。

 

この記事はブログの記事に加筆したものです。

元記事を含む大手デビュー後の新人時代の体験記「漫画けもの道」は以下に一覧にしています。ご興味があれば続けてお読み下さい。

 

大手デビュー後の裏話(日付順) 

アンケート1・2位以外意味がない

競争率30倍 

2位じゃダメなんでしょうか?

迷える子羊はいらない

ガチ保守編集とフェミ編集

おしゃべり女禁止令

崖っぷちのチェンジ

タイトル地獄

年間200ページの低所得者 

極限状態の兼業生活

大きな運命には抗えない

極限のセーフティネット

牙をむいたライオン

段ボール追放その後

無法地帯

スパルタ編集

コネも大切

 


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