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1日分のギャラでデータを永久利用

AIに仕事を奪われる、奪われない問題を単純に両者の競合と見れば、だいたい以下のようになると思います。

 

速度・量はAIが上→AIの方が効率的

AIには誤りがある→人間による補完が必要

 

AIに負けない仕事をする上級者は残る、という結論になります。

AIに負けないように努力しろ、ということです。

本人の努力に任せる自己責任論です。

 

 

しかし現実に起きているのはAIと人間の競争ではありません。

 

2023年7月、ハリウッドの映画俳優組合と映画製作者協会(AMPTP)の交渉が決裂し、映画俳優組合がストライキに突入しました。理由の一つとして「エキストラ俳優を1日分のギャラでスキャンし、俳優をAI生成して肖像権を同意なし追加報酬なしで永久に使う」という法外の条件を提示されたことが伝えられています。

11月8日暫定合意に達し、同意と補償なしに本人の映像がAIによって複製や改変、使用されないことの保証が盛り込まれました。

 

データの無断利用はAIと人間の競争ではありません。

企業と労働者の問題です。

言い換えれば人間と人間の問題です。

肖像の利用はプライバシーの侵害、名誉棄損、パブリシティ権等の人権問題にもなります。

 

エキストラ俳優の努力で解決できる問題ではありません。

 

日本で過去のグラビアのデータを利用したAIグラビアアイドルの写真集が発売されたことがあります。使用した生成AI、データについては不明ですが、特定のモデルに似ており、批判を浴びて間もなく企画終了となりました。モデルとされる女性は水着写真集の製作を拒否したことがあり、トラブルのあった事務所との契約を解除していたという事情が報じられています。そうしたモデルの許諾を得ずよく似たAIアイドルの水着写真集を発売することには、人格権(芸能人の場合はパブリシティ権)に関わる問題があります。また、データを使われたモデルにギャラが支払われたという報道もありません。

 

エキストラを1日分のギャラでスキャンし肖像権を同意なし追加報酬なしで永久に使うというハリウッドのストライキの引き金になった事例と同じ問題があります。

 

現在の生成AIで作られたグラビアモデルに共通する問題です。

 

仮に追加学習分のデータはモデルの許諾を得て使用するとしても基盤モデルがStable Diffusionであればネットから無許諾で取得した大量のデータを学習に利用しており、そこに権利侵害リスクがあります。同じデータが100あれば、AIに記憶されて再現されるという論文があります。それよりデータが少ない場合も、似た顔が出るリスクがゼロにはなりません。それ以前に盗撮や海賊版、児童ポルノなど、違法性のあるデータが使用されており、生成に影響を与えている可能性もあります。それを知っていると、無頓着な利用に対して心理的な抵抗があります。

 

俳優ばかりでなく、声優の声もすでに無断で商用利用され、犯罪にも悪用されています。

 

日本人のイラストレーターにも、過去納品したデータをAIで加工されるようになり、新しい仕事をもらえなくなった人がいます。

 

問題はAIと人間との競合ではありません。

 

自分の過去のデータが、著作権も肖像権も

同意なし、報酬なしで永久に使われる

ということです。

 

使うのは人間です。AIではありません。

使い方についてはAIに責任はありません。

それは人間の責任です。

 

ハリウッドのように同意と補償なしに使用されない契約があり、企業が人間の権利を尊重していることが分かれば良いと思います。しかし実際にはどのような契約なのか、生成AI、学習データは何を使っているのかわからないため受け入れにくいというのが正直なところです。

 

基盤モデルに問題がある限り、どう努力しても問題が残ります。しかしリスクのあるStable DiffusionやMidjourneyの性能が良いため利用者が多くなっています。

 

基盤から問題のない生成AIがあれば、そちらを選んでほしいと思います。5月6日、Freepikが著作権クリアなオープンソースAI画像生成モデル「F Lite」を発表しました。しかしFreepikにはAI生成画像の投稿が多く著作権で保護されているキャラクターもありますので、F Liteの学習に利用されたデータに本当に権利問題がないかどうかはデータが公開されるまで判断を保留します。

https://xenospectrum.com/freepik-launches-f-lite-a-copyright-clear-open-source-ai-image-generation-model/

 

日本のMitsua Likesも著作権問題をクリアしています。違法な追加学習、悪用を回避する対策も取られています。

 

米国製のPublic Diffusionもベータ版を公開中です。正規版の公開が待たれます。使用したデータセットPD12Mも現代のデータにはコミュニティによるチェックが入っています。

 

問題のあるデータと知りながら利用し、無償で使い回すのは人間です。それを使わない選択肢はできています。