漫画けもの道9 打ち合わせ地獄

 今はネットで漫画を公開でき、販売も個人でできます。出版社からいきなり単行本化される幸運な人もいます。誰でも色々な形で作品を発表できるのはいいことだと思います。しかしネットには基本を教えてくれる人がいません。コマ割りが全くできていない漫画を見て直してあげたくなっても、そこまでする時間が取れませんし、第一求められてもいないのに口出しはしにくいものです。やはり投稿した方がいいですし、その前に学校で学ぶのもひとつのやり方でしょう。
 私はデビューした大手で厳しい打ち合わせに苦しみました。まず、一度でネーム(台詞入りのラフ)が通ることはなく、全く別物と言っていいほど大幅な修正を求められ、頭が混乱し、自分を否定されたようで感情も傷つき、修正する気力が萎えてしまい、しばらく休まないと取りかかれないこともありました。
 以前タイトル20本出し、という話を書きましたが、ネームも5回直し、完全な別物に作り直し、ということもありました。内容の練り直しもあれば、コマ割りや見せ方、言葉遣いの修正もあります。絵ができてからの描き直しもあります。大物になると、担当編集者にもよりますが、修正されなくなると聞いたことがあります。しかし最初のうちは、自分の作ったネームは跡形もなく壊されるものと覚悟した方がいいでしょう。あえて未完成の大雑把なネームを出して、編集者と打ち合わせながら作る人もいます。そのやり方に慣れて、別の会社で未完成のネームを出したら怒られた、という話も聞きました。最初に打ち合わせのやり方を確認した方がいいと思います。
 それ以前に厳しく注意されるのは、パクリです。私がたまたま読んだばかりのベストセラーの話を打ち合わせで出したら「それをなぞってどうするの?」と編集者に言われました。そんなつもりはなく、話のつかみに出しただけなのでそう説明しましたが、ヒット中のドラマや小説や映画をすぐ連想させる話は、編集者に嫌われます。著作権問題にならないような、おおまかな設定やストーリ―の類似でも、勉強している編集者ほど敏感で、避けようとします。著作権法の線引きとは別問題です。読者から批判を受けることが目に見えるからです。同人誌出身や、大手経験のない人には、いつまでたってもパクリに無頓着で露骨にやってしまう人がいます。大手に持ち込んで、プロと認めないと言われた人もいます。
 コマ割りも大手の指導は厳しく、バストアップと台詞ばかりという手軽なコマ割りは通りません。1~2ページバストアップ(上半身だけ)では必ずリテイク(直し)になります。下絵まで描いてバストアップが多いとリテイクです。甘いところもありますが、大手では時間がなくても直されます。
 特に直しが多い編集者との仕事に慣れて、自分でネームができなくなり、他社への持ち込みを躊躇する人もいます。自分でネームを切らせる編集者とも仕事をした方が、バランスが取れます。配信に使っている作品は、ほぼ直しがなく自力で作ったものですが、それができたのは最初に基本を教えてもらえたからです。感謝しています。