漫画けもの道6 おしゃべり女禁止令

 デビュー後まもなく、担当編集者から注意を受けました。「デビュー前に好きな漫画家、嫌いな漫画家の話をして、嫌いな人をけなすこともあるけど、デビューしたら同じ世界で仕事をするんだから、他人の批判や噂話をしてはいけないよ。狭い世界だから、必ず本人の耳に入って、仕事ができなくなることもあるから気をつけてね。」
 漫画家は閉じこもって仕事をしますし、あまり遊び歩く時間もありません。人とおしゃべりする時間は少ないと思います。それでもパーティーやイベント、アシスタントが来ている仕事場で、気が緩んでついおしゃべりをしてしまうことはあります。私はスケオタを集めて楽しくおしゃべりするようにしています。誰でも入れる無難な話題で楽しむのがいいと思います。仕事仲間ですから、私生活には踏み込まないことが基本です。その場では黙っていても、おしゃべりを嫌ってその後寄りつかなくなる人もいます。「何か面白い話をして」と言われることもありますが、怪談など、害のない雑談がいいと思います。自分のプライバシーはなるべく話さないことです。尾ひれをつけて噂されたり中傷されたり、無断で漫画のネタに使われたりします。
 たまたま話の合う同業者と流れで踏み込んだ話をすることはあります。人の噂が出ることもあります。編集者にもおしゃべり好きな人はいます。それでもその場で話したことを、そこにいなかった別の人に(尾ひれをつけて)話すのは慎んだ方が、後々問題になることがありません。1人にうっかり話したことが瞬く間に広まり誰が噂流している、とわかってしまい、その結果絶交になった、ということもあります。噂が嫌い、という人は特に厳しく、噂好きな人を許しません。人間関係は大切で、いざという時仕事を紹介してくれる、いい編集者を教えてくれる、など、助けてもらえることがあります。それはお互い様ですが、キャリアの長い人ほど色々事情に通じていて、新人を助けてくれることがあります。知遇を得て、べらべらとその人のプライベートな噂を流せば、それきりになってしまいます。悪意ある噂でなくても、自分の噂を流されるのを極度に嫌う人がいて、噂をすれば絶交です。
 仕事より大切なおしゃべりはありません。アシスタント同士でも、口が固い人の方が信用されます。寡黙にやるべきことをやる人が仕事をもらえます。大きな声で別のアシスタントや漫画家をこきおろす人がいますが、他人の批判が多い人は自分の仕事が思わしくないことが多く、調子を合わせるとろくなことがありません。相槌を打つのも同罪です。悪口に同意したことになります。私自身も失敗はありました。反省しています。