漫画けもの道3 2位でいいんです

 国会議員が事業仕分けで「2位じゃダメなんでしょうか?」と発言し批判を浴びました。漫画では巻頭カラーが1位と決まっています。前回低調で最下位だった人が次に巻頭で1位を取ることもあります。また、編集者に聞いた話ですが、巻頭カラーの出来が悪く、編集部一同「失敗だ」と頭を抱えたのに、結果的にはやはり1位だった、ということもあります。「どうしよう、こんなつまらない話が1位取っちゃった」と編集者が嘆いていました。それほど巻頭で外すことは珍しいのです。巻頭で外すと厳しいですが、逆に巻頭でないのに1位を取れば金星です。2位でも差が小さければ、本当に受けたのは2位の作品だと評価されます。つまり、巻頭でなければ2位でいいんです。巻頭カラーの1位はほぼ決まっていますが、問題は順位でなく雑誌が売れるかどうかです。誰が巻頭なら売れるかが試されています。それが巻頭の責任です。
 2位と差のある3位は、初登場の新人ならともなく、それなりの評価です。その雑誌で長くやっているベテランなら、編集者から誰が何位と毎回つぶさに聞かされています。ですからアンケートを取るコツを知っています。外せない、危ないと思い、過去のデータを総動員して手堅い話を描き結果的に3位を取ったとしても、編集者は評価しません。「何年やっているんだ、アンケートに甘えるな!」とこっぴどく叱られたという話を聞いたことがあります。
 口の悪いベテラン漫画家が「この雑誌で受けるのは、動物と子供と病気」と自嘲気味に言っていました。確かに女性向けならそうかもしれません。受けるコツを知っているベテランの「何回も読んだネタ、話」は確実に読者に受けます。しかし編集者の期待は新しさにあります。3位より下でも、無難な計算づくの3位より冒険している作品もあり、それを評価して使う編集者もいます。ただし、いつも中下位でいいと甘んじてしまう怠惰は命取りです。看板を背負う気がないと壁を破れず、よくて穴埋め、悪ければフェードアウトです。
 私は1年めを過ぎた頃3位を取りましたが、それは受けやすい設定で描いた結果でもあります。評価されなかった理由は、今はわからないこともありません。それにしても、未経験の新人に1年2年で斬新な作品を描き数字を出してトップランカーになれという要求は、厳しいものです。
 事実上明日がわからない失業者に近い生活、心境です。アシスタントなどの仕事もありますが、時間がなくなり描けなくなる、またアシスタントに甘んじてしまう恐れもあります。
 デビュー前の経験には書くほどのこともありません。思い返せば投稿時代など居眠りしていたようなものです。そのくらい落差があります。デビュー前胸に秘めていた「私は天才」の自惚れがどうなるか、ぜひ経験して下さい。勝てると思った作品に負けるのです。何が悪いのかわかりません。編集者の助言も理解できないことがあります。

 漫画家志望者が時々プロをバカにしますが、人のことはどうでもいい、と編集者は言います。