漫画けもの道2 競争率30倍

 デビューしてすぐやめる人もいれば、売れる人もたまにはいます。どちらでもなく細々と描き続ける人もいます。そういう場合が多いと思います。
 どこの出版社も人気作家は抑えたいので、1年以上前からスケジュールを決めてしまいます。雑誌のページ数、掲載枠が限られ、すでにかなり埋められている中で、新人、前年、その前の若手、他社からの持ち込みなどが競い合ってページを取りに行きます。私の経験では30倍の競争率だったことがありました。
 全体が売れている時は、増刊や新雑誌を出して枠を増やすのでまだ楽ですが、それでも競争ですし、結果も厳しく査定されます。1つの雑誌で順調に育てばいいのですが、最悪雑誌が潰れることもあり、編集長が交代して使う作家を総入れ替えすることもあります。前編集長時代の新人の多くは切られ、別の雑誌に持ち込み一からやり直すしかなくなります。私も雑誌が潰れる経験を何度かしています。専属ではなかったので、新人の頃から複数の雑誌に持ち込んでいました。他流試合をした方がいいという編集者もいたので、割り切っていました。あちこちの雑誌に描いてどこの漫画家かわからない、という人がいるのはそうした事情によります。

 弱小やエロ漫画やマージャン劇画で仕事をすることもあります。そこから大手に移ってヒットを出す人もいます。弱小でも異色のヒットを出すことがありますから、希望は捨てていません。大手だけでずっとやれる人が少ないという意味では食えない仕事かもしれませんが、その周辺の多くの媒体、広告も含め全体で、その気になれば何とか描ける生態系のようなものができています。それが今はネットにも広がり、他の仕事との兼業も可能です。
 そこで漫画は大手だけでいい、アニメはジブリだけでいいというような、わかっていない人が権力を持つと、困ったことになります。エロは潰す、レディコミもエロ、漫画を広告に使うな、という規制があったら、今いるスターにも生きてこられなかった人がいます。大手のひとつの場所でスターでい続ける人はきわめて稀だからです。
 またどんな仕事でも同じですが、家庭環境が厳しい人は、とにかくお金を稼がないといけない、そのために仕事を選べない場合もあります。 外からはわからない事情があるのは、どこも同じでしょう。